27個のKPIを並べて、なにも決められなかった3ヶ月

「今週、売上の進捗どうですか?」

月曜の朝の経営会議で、私はNotionのダッシュボードを開く。商談数、リード単価、平均受注額、稼働率、粗利率、リピート率、サイト流入、問い合わせ転換率——画面いっぱいに27個の数字が並んでいる。全部「重要」だと思って入れた数字だ。

しかし、会議が終わるたびに違和感だけが残った。数字は見ている。グラフも綺麗に並んでいる。なのに、「では今週、私たちは何を変えるのか?」という問いに、誰も即答できない。これが3ヶ月続いた。中小企業の経営にとって、見るべき数字が多すぎることは、見ていないこととほとんど同じだと、私はようやく気づいた。

なぜKPIは増えてしまうのか — 構造の話

増える理由は、悪意でも怠慢でもない。むしろ「真面目さ」だ。

営業会議では商談数が大事。マーケ会議ではCVRが大事。経理ミーティングでは粗利が大事。それぞれの場で「これも見ましょう」と言われ、Notionの管理者(私)はうなずいて追加していく。半年後、ダッシュボードは数字の墓場になる。

ここで問題なのは、数字の多さそのものではない。「どの数字が動けば、来月の経営判断が変わるのか」が、社長自身の中で整理されていないことだ。私はこの3ヶ月、毎週27個のKPIを眺めながら、実は何ひとつ「動かす対象」を決めていなかった。可視化と意思決定は別物だと、痛い目を見てから理解した。

エイトで実際にやったこと — 「3つだけ」に削るプロセス

3ヶ月目の終わり、私はNotionのダッシュボードページを白紙に戻した。そして、以下の3つだけを残した。

階層見る数字何のため
1. 先行指標今週の有効商談数来月の売上が立つかの予測
2. 現在指標今月の受注確度80%以上の合計着地予測
3. 体力指標稼働可能時間の埋まり率受けすぎ/空きすぎの判定

たった3つ。しかも、すべて「これが動いたら、来週なにを変えるか」が事前に決まっている数字だ。例えば、有効商談数が前週比80%を切ったら、その週はリード獲得の動きを優先する。受注確度80%以上の合計が月の目標を下回りそうなら、既存顧客への追加提案を優先する。

残りの24個のKPIを捨てたわけではない。月次レビューや、特定の課題が出たときに掘る「予備の引き出し」に格納した。毎日見る場所と、必要なときに取り出す場所を、物理的に分けただけだ。

結果として、月曜の経営会議は45分から20分に短くなった。そして、会議の最後に必ず「今週、何を変えるか」が3行で決まるようになった。社員からは「数字の話が、初めて自分の今週の動きと繋がった」と言われた。これは思いがけず大きな変化だった。

中小企業のKPI設計に効く、3つの問い

この試行錯誤を経て、私は中小企業のKPI設計を考えるとき、社内で必ずこの3つの問いを通すようになった。

  • その数字が動いたら、来週の行動が変わるか?
  • その数字を、社長以外の誰が、どの場面で見るか?
  • 動かない週が3週続いたとき、その数字は本当に必要か?

大企業の真似をして、KPIツリーをきれいに描く必要はない。中小企業の社長と数十人の組織が、来週の動きを変えるために必要な数字は、驚くほど少ない。多すぎるKPIは、組織から「考える時間」と「変える勇気」を奪う。これは経営の現場で、私が痛感したことだ。

結び

ダッシュボードを作ることと、ダッシュボードで経営することは、まったく別の仕事だ。あなたの会社の朝、社長が最初に開く画面に、いま何個の数字が並んでいるだろうか。そのうち、来週の意思決定を本当に変える数字は、いくつあるだろうか。

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