赤字の事業や採算が合わない取引を、「もう少し様子を見よう」と続けてしまう──中小企業の経営者の方から、この相談を本当によく受けます。撤退の遅れは、次に張るべき一手の機会損失そのものです。

「やめる」が決まらない現場で起きていること

取引先A社からの売上は、3年前のピークから半減し、利益率は2%まで下がっている。それでも、5年付き合った担当者の顔が浮かぶと「もう少し」と言ってしまう。

新規開発した自社サービスは、月商10万円で停滞して18ヶ月。撤退すれば固定費が月50万円浮くのに、開発に費やした2,000万円を「無駄にした」と認めるのが怖い。

これは、私が直接耳にした2社の社長の言葉を、ほぼそのまま書き写したものです。撤退判断は、数字より感情が勝ってしまう意思決定の代表例だと感じています。

撤退が遅れる構造的な3つの理由

1つ目は、サンクコストへの執着です。すでに使った時間とお金は、合理的には判断材料から外すべきですが、人はそれを「取り返したい」と思ってしまいます。

2つ目は、撤退の社内コストが見えにくいことです。続ける負担は分散して見えませんが、撤退に踏み切ると、人員配置の組み替え・取引先への連絡・在庫処分など、目に見える「面倒」が一気に降ってきます。だから現場は無意識に先送りを選びます。

3つ目は、撤退基準が事前に言語化されていないことです。基準がないと、判断は「気合い」と「タイミング」に依存し、毎回ゼロから議論することになります。議論が長引くほど、結論は出にくくなります。

来週から始める3ステップ

1つ目、撤退基準を「数値+期間」で1ページに書き出すこと。たとえば「直近6ヶ月の粗利が累計100万円以下なら撤退検討の俎上に載せる」のように、具体的な数字を社長自身の手で紙に書きます。基準があると、判断は半分「自動化」に近づきます。

2つ目、月1回の30分、「撤退候補レビュー」を経営会議の冒頭に置くこと。新規施策ばかり議論していると、撤退議題は永遠に後回しになります。最初の30分を奪われないだけで、2〜3年止まっていた判断が動き始めます。

3つ目、撤退の「言い方テンプレート」を用意すること。長く付き合った取引先には、「来期から取引条件を見直したい」という前段階の伝え方を、文面で1パターン持っておく。テンプレがあるだけで、社長の「言い出すコスト」が一気に下がります。

ある製造業の社長は、この3つを半年導入し、停滞していた2事業を整理して、空いた工数を新サービスの立ち上げに回されました。撤退は、後ろ向きの判断ではなく、次の前進のための最大の燃料です。

さいごに

今、頭の中に「やめたほうがいいと薄々わかっている事業や取引」は、いくつ浮かびますか。それを今日、1行でいいのでメモしておく──ここから次の意思決定が動き出します。

DXや事業整理の打ち手について第三者の壁打ちが欲しい方は、コーポレートサイトのお問い合わせフォームからお気軽にご連絡ください。